NETS(熱・換気回路モデル)詳細ページ
   
熱・換気回路網モデルについて

 本理論は、対象とする系を連立方程式的なシステムで扱います。建築の伝熱や換気の現象を構成要素に分解し、壁一枚の伝熱や、開口一つの空気通過を計算するだけであれば、必ずしも連立方程式で考える必要はありません。 しかし個々の要素は単純でも、連成した全体の挙動になれば難しくなるのが建築分野の特徴です。こうした問題の特徴に適した理論がシステム理論であり、システム理論の基本方程式はベクトル・マトリックス表示の状態方程式です。この基本方程式を構成するのが熱・換気回路網モデルなのです。

 プログラムNETSは、システムに加えられる気象条件や人為的な条件を取り込み、また計算モデルの構造が変化することも考慮しながら、システムの状態方程式と空気流動を安定で精度の良い解法で解き、各種の状態量変化をシミュレートしていきます。
このNETSを用いた解析にて、居室の温冷感、空調負荷算出、空気質の検討、結露の検討が可能となります。

 プログラムSPIDは、トレーサーガス濃度変化や温度変化の観測値から、多変数で連立した最小二乗法によって、室間の風量や室の有効混合容積、あるいは熱損失係数や日射吸収係数などのパラメータを同定します。 このSPIDを用いた測定により、換気量測定、室間風量の推定、熱貫流係数の推定が可能になります。

 プログラムSOCSは、温冷感、エネルギーと有効エネルギーの三項を考慮して、最適のエネルギー供給量と温湿度の分布を、随伴状態ラグランジェ乗数法を用いて決定します。このSCOSにより最適化された制御を実現する冷暖房システムの設計が可能になります。

▲NETSの概念図

 
エキスパート向けの研究開発ツールとして最適  

 NETSの本体プログラムは、数値的な入力データを受け取り、数値的な出力データとして計算結果を出すソルバーです。そこでユーザーが、お絵かき感覚でモデルデータを作ることができ、計算結果も図形的に表示できる入出力処理プログラムを開発しました。それがNETSGENとNETSOUTです。
   
■ NETSGEN
  幾つかのモデル要素を自在に組み合わせて計算モデルを作ることができます。よく使用されるモデル部分はライブラリィに登録して全体のモデル構成を効率よく行うことも可能です。また物性値等もライブラリィにあるものを適宜引用することができます。この3つのモデルの連成は対応する節点をクリックすることで定義することができます。

お絵かき感覚で、自由に設計者のアイデアを計算モデル化できます。
▲NETSGENの概要


■ NETSOUT
  予測計算の結果は状態値の空間分布と時系列的変化に大別されます。それぞれグラフィックに、あるいはグラフで表示されます。表計算ソフトで別の処理などを行いたい場合には、CSV出力を行うこともできます。

温熱環境、省エネ効果、空気環境等を分かりやすく図形表示できます。
▲NETSOUTの概要


 
汎用的な方程式により自由なモデル化が可能で、実用的で安定した解法

■ 対象をシステム的な方程式で取扱い
熱・換気回路網モデルは、計算対象を連立方程式のように扱います。システムの基本方程式はベクトル・マトリックス表示の状態方程式であり、この方程式を構成するのが熱・換気回路網モデルです。 伝熱・換気の現象を構成要素に分解し、壁一枚の伝熱や、開口一つの空気通過を計算するだけであれば簡単です。しかし、個々の要素は単純でも、連結したシステムとして全体を計算することは難しくなります。熱・換気回路網モデルはこうした問題を計算するのに適しています。

■ システムを自由にモデル化
モデルの基本方程式は、全ての対象系を記述している万能の方程式です。そのため新しい工夫を建物の用途、形状に関わりなく自由にモデル化できるようになっています。 さらに、従来の数値流体解析モデルに比べシステム全体を重視した総合的かつ実用的なモデル化ができ、実際に起こる様々な変化を想定でき現実に近い予測が可能です。 例えば窓や戸の開閉あるいは空気流動径路の切り替え等が起こる場合であってもそれをモードの変化という捉え方で、想定していくことができます。 多様な空間的離散化モデルを包括する骨組みを持っているので、異なった離散化モデルを繋ぎ合せることで実用的なモデルの作成が可能となります。また、システム理論という応用数学をダイレクトに適用できるので、最適設計モデルへ発展させることができます。


 
多くの適用実績

熱・換気回路網モデル(NETS)には以下のような数多くの適用実績があります。

  • 工場の自然換気による温熱・空気環境検討および給排気口の設計
  • 屋内プールや温泉浴場施設における結露の検討
  • 事務所建築などでの夜間の外気冷房効果の検討 ⇒詳細へ
  • 屋根散水や屋上緑化の冷房負荷低減効果検討
  • アトリウム等大空間での温室効果と自然換気に関する検討
  • 夜間電力による躯体蓄熱(蓄冷)効果の検討
  • 建物躯体の熱橋による結露や冷暖房負荷への影響の検討
  • 冷凍倉庫まわりの結露や凍害の検討
  • 外壁に通気層を設けた外断熱の熱・湿気性能の検討 ⇒詳細へ
  • 窓に内/外の日射遮蔽装置を付け時間的に開閉を制御する場合の効果検討
  • 高層建物での煙突効果による各種の不具合対策効果の検討
  • 大気や室内発生の汚染ガスの家屋内侵入と室間流動の予測検討
  • 集合住宅の自然・機械換気システムの効果検討
  • 付設温室など建築的太陽熱利用方法の検討 ⇒詳細へ
  • ソーラー・チムニーなど太陽熱と煙突効果利用法の効果検討
  • トロンベ壁など日射の躯体蓄熱利用効果の検討
  • 多槽直列型(地下ピット利用)や成層型などの蓄熱糟の性能予測
  • 太陽熱集熱器の構造や仕様による性能の違いの予測検討
  • 地中熱利用のクールチューブの効果検討
  • 蓄熱式電気暖房器の性能予測
  • 床暖房・天井冷房など大面積放射冷暖房の予測検討
  • 加圧排煙など各種の排煙方式の効果検討
  • 潜熱蓄熱材の建築的利用による省エネ・温冷感検討

 
建築伝熱・換気予測計算プログラムNETS(Networt Model Simulation Program)

 NETSには、ビジュアルな入出力インターフェイスが用意されています。システムに加えられる気象条件や人為的な条件を取り込み、また計算モデルの構造が変化することも考慮しながら、システムの状態方程式と空気流動を安定で精度の良い解法で解き、各種の状態量変化をシミュレートしていきます。NETSは細かく分類すると、計算モデル作成(NETSGEN)、シミュレーション(NETS)、計算結果の表示(NETOUT)の3つに分けることができます。NETSGENでは図を使って簡単に計算モデルのデータ入力ができ、NETSで計算を処理し、最後に、NETSOUTで建築伝熱と換気予測の計算結果を図として得ることができます。


 
■ NETSの入出力処理画面
  モデル要素配置や接続はNETSのツールバーにあるモデル図描画の機能のボタンを押してモデル要素配置や接続を行って行きます。描画の下敷きの際は、建築図を透かすことができ、熱、換気やガスの他のモデル図もガイドのように使えます。
NETSOUTの画面
NETSOUTの画面



■ NETSの入出力例
    別の拡大画面で順番にご覧になれます。下の画面上をクリックしてください。

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熱回路網モデル構造作成 熱回路網モデルパラメータ入力 換気回路網モデル構造作成 換気回路網モデルパラメータ入力 熱と換気の対応情報定義
熱回路網モデル構造作成 熱回路網モデルパラメータ入力 換気回路網モデル構造作成 換気回路網モデルパラメータ入力 熱と換気の対応情報定義

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モード変化チャート表定義 制御則の実施スケジュール定義 フィードバック制御則の定義 人為的な与条件の定義 有限要素法による伝熱部品作成
モード変化チャート表定義 制御則の実施スケジュール定義 フィードバック制御則の定義 人為的な与条件の定義 有限要素法による伝熱部品作成

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温冷感指標の計算定義 温度分布等の計算結果表示 温度や熱負荷等の時間変化表示 風量や室内圧分布等の計算結果表示 風量や差圧等の時間変化表示
温冷感指標の計算定義 温度分布等の計算結果表示 温度や熱負荷等の時間変化表示 風量や室内圧分布等の計算結果表示 風量や差圧等の時間変化表示


 
熱回路網のシステム同定プログラムSPID(System Parameter Identification Program)

 従来の換気測定法では外気との換気風量しか分からず、空気流動の径路が把握できないなど、機能的に精度的にも不十分でした。システム同定プログラムSPID(System Parameter Identification Program)は、実際の建物で多数ゾーン間の風量を同定したり、熱貫流係数を同定したりすることができます。トレーサーガス濃度変化や温度変化の観測値から、多変数で連立した最小二乗法によって、室間の風量や室の有効混合容積、あるいは熱損失係数や日射吸収係数などのパラメータを同定します。SPIDとNETSの機能の関係はちょうど逆になり、NETSでは、モデルの様々な係数を与えて、状態値の変化を解いていきますが、逆に、SPIDは測定で状態値の変化を得た場合に、モデルの係数を推定(同定)します。拡散系の数学モデルとしては、温度の拡散系もトレーサーガスの拡散系も同じです。多数室系でトレーサーガスの拡散系にSPIDを適用すれば、室間の風量や外気との換気風量あるいは有効混合容積などが同定できます。


多数室喚気測定システム

 
計測中の建屋概観
▲計測中の建屋概観
  計測装置
▲計測装置

 
ガス注入流量と濃度の経時変化実測値
▲ガス注入流量と濃度の経時変化実測値
  システム同定結果(風量分布図)
▲システム同定結果(風量分布図)



 
エネルギー供給と温湿度の最適化プログラムSOCS(Systematic Optimizing Control Strategy)
 SOCS(Systematic Optimizing Control Strategy)は、空気温度ばかりではなく熱放射環境と蒸発冷却も考慮して、低温の冷温水と小さな設備機器で稼動する冷暖房システムの設計をすることができます。プログラムSOCSは、温冷感、エネルギーと有効エネルギーの三項を考慮して、最適のエネルギー供給量と温湿度の分布を、随伴状態ラグランジェ乗数法を用いて決定します。SOCSは、説明用に単純化した場合に、次の評価関数を最小にする冷暖房機器への供給熱流や冷温水温度を決定します。

 (評価関数)=(重み1)×(人体躯幹温-36.85℃)2+(重み2)×(供給熱流-0)2+(重み3)×(冷温水温度-外気温度)2

 この評価関数の第一項の意味は、どれだけ温冷感が無に近いかを表しています。第二項の意味は省エネ性です。第三項は使用する冷温水がどれだけ低温でよいかを表し、冷温水が低温であれば熱源機器の使用効率は低くなります。また、自然エネルギーや排熱が使える可能性もあります。人体の温冷感には、気温だけではなく熱放射環境や湿度などの影響も大きく、熱放射環境を適切に制御できれば、より省エネかつ省資源的な冷暖房システムが実現できます。事例研究では従来用いられてきた温水温度よりもはるかに低温の温度で稼動するシステムを開発することができました。

 

▲事例の暖冷房換気システム(左)と熱・湿気回路網モデル(右)